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吉田孝行とは何者か――神戸を王者にした“リアリスト”は清水エスパルスをどう変えるのか?|LARANJA TIMES 25.12.01号

【令和7年】2025年12月1日(月)

2025年12月1日時点で、スポニチなど複数のメディアが「今季限りでヴィッセル神戸を退団する吉田孝行監督が、来季(2026シーズン)清水エスパルスの監督に就任することが決定的」と報じています。

スポニチ Sponichi Annex
神戸退団の吉田孝行監督、来季は清水の監督就任が決定的 交渉は最終段階 - スポニチ Sponichi Annex サッ...  清水の来季監督に、今季限りで神戸を退団する吉田孝行監督(48)の就任が決定的となったことが30日、分かった。複数の関係者によると、23、24年に神戸をリーグ…

ただし、12月1日時点ではクラブからの正式発表は出ていません。(最終節終了後まで清水は取り合わない)

まだ有力候補で確定ではないとは言え、清水サポーターとしては気になる事間違いないです。

本記事では、その吉田孝行という監督がどんなキャリアを歩み、どんなサッカーを志向するのかを整理してみます。

明治安田J1リーグ 第37節 ヴィッセル神戸のホーム最終節での吉田監督・退任挨拶

    目次

    吉田孝行の略歴:フリューゲルスの「最後のゴール」から神戸の象徴へ

    吉田孝行(よしだ・たかゆき)は1977年3月14日生まれ、兵庫県川西市出身。ポジションはフォワード/攻撃的MFでした。

    プロデビューは横浜フリューゲルス(1995年)、その後は横浜F・マリノス、大分トリニータ、再び横浜F・マリノスを経て、最終的にはヴィッセル神戸で現役生活を締めくくっています。

    所属期間クラブ出場(リーグ戦)得点(リーグ戦)
    1995年〜1998年横浜フリューゲルス71試合9得点
    1999年〜2000年横浜F・マリノス21試合2得点
    2000年〜2005年大分トリニータ189試合44得点
    2006年〜2007年横浜F・マリノス49試合4得点
    2008年〜2013年ヴィッセル神戸140試合27得点
    通算470試合86得点

    選手としての代表的なエピソードを、エスパルスサポ的にインパクトがあるものに絞ると、次の3つが挙げられます。

    • ① 横浜フリューゲルス「最後の試合」で決勝ゴール
      1999年元日の天皇杯決勝、クラブ消滅が決まっていた横浜フリューゲルスは、清水エスパルスとの一戦に臨みました。この試合で吉田は決勝ゴールを決め、フリューゲルスに“有終の美”をもたらします。エスパルスサポからすると、あの「フリューゲルス最後の相手」の試合で決定的な仕事をした選手が、25年以上を経て今度は清水の指揮官候補として名前が挙がっているのは、なかなかドラマのある巡り合わせです。
    • ② ヴィッセル神戸で残留の立役者に
      2008年に地元クラブのヴィッセル神戸へ移籍すると、チームのJ1残留争いの中で存在感を発揮します。2010年シーズン最終節で2ゴールを挙げて残留を決めるなど、「ここぞ」という場面で得点を奪う勝負強さを見せました。神戸ではキャプテンも務め、クラブの顔と言える存在になります。
    • ③ 引退後も神戸一筋、功労選手賞も受賞
      2013年に現役を引退すると、翌年にはJリーグ功労選手賞を受賞。その後も神戸のアンバサダー、コーチ、監督としてクラブに関わり続け、「神戸と運命共同体」のようなキャリアを歩んできました。

    つまり吉田孝行は、「消滅クラブの最後のゴール」や「残留を決める決定弾」など、クラブの歴史の節目で強烈な爪痕を残してきた勝負師と言えます。

    人物像:情熱とクラブ愛を武器にする“リアリスト”

    監督としての吉田を語るうえで、まず押さえておきたいのは「情熱とクラブ愛」そして「リアリストとしての冷静さ」です。

    2023年に神戸が悲願のJ1初優勝を決めた名古屋戦後、吉田監督は「現役最後から神戸に関わって14年。最高です」と涙ながらに語りました。
    震災の記憶やクラブの歴史に触れながら「スポーツを通して勇気や希望を与えたい」と話す姿からは、単なる渡り鳥ではなく「街とクラブに対する強い思い」を持った監督であることが伝わってきます。

    一方で、その内側にはかなりのリアリズムがあります。
    かつて神戸を解任され、V・ファーレン長崎でもJ1昇格を逃した経験から、「結果が出なければ意味がない」と強く意識するようになったとされています。
    神戸を再び預かった2022年、最下位に沈むチームを立て直す過程で、彼はクラブが掲げていた“バルサ化”(ポゼッション志向)から大胆に舵を切り、「縦に速い、ゴールに直結するサッカー」へシフトしました。
    イニエスタを象徴とするポゼッション路線を見直す決断は、クラブ内外で賛否両論を呼びましたが、最終的には残留とその後の黄金期につながっていきます。

    ゲキサカの優勝特集では、吉田監督のもとで「戦えない選手は出られない」「たとえイニエスタであっても競争に勝たなければ出場できない」という“当たり前の競争”がチームに根付いたと紹介されています。
    スターにも遠慮しない、しかし説明責任を果たしたうえでの競争原理――このあたりに、清水サポ的には「甘さのないマネジメント」への期待と不安、両方を感じる方も多いかもしれません。

    監督としての歩みと実績:神戸を黄金期へ導いた手腕

    神戸3度目の就任で「最下位から残留」へ

    吉田監督の指導者キャリアのハイライトは、やはりヴィッセル神戸での3度目の就任(2022年途中)から始まる一連の流れでしょう。
    2022年6月、当時の神戸はJ1第18節終了時点で2勝5分11敗、勝ち点で残留圏と大きく離された最下位。
    ここで強化部スタッフだった吉田が再び監督に就任します。

    彼が打ち出したのは、前線からのハイプレスと、ボールを奪ってから一気にゴールへ向かうショートカウンター。
    クラブが長年追い求めてきた「バルサ的ポゼッション」よりも、「どうすれば勝ち点を積み上げられるか」という視点に徹した現実的な戦い方でした。
    その結果、終盤には5連勝を含む怒涛の追い上げで残留を確定させます。
    ここで掴んだ“型”が、翌年以降の神戸のベースになっていきます。

    2023〜2024年:J1初優勝から連覇・国内2冠へ

    2023年シーズン、神戸はオフの大型補強こそなかったものの、吉田監督は「競争と共存」をテーマに掲げ、イニエスタを含めスター選手を“特別扱いしない”起用方針を徹底しました。
    大迫勇也のポストプレーを軸に、武藤嘉紀らアタッカーが連動する攻撃、そしてチーム全体で連動してボールを奪いに行く守備。Jリーグ公式や各種メディアでは、

    • 連動したハイプレスで穴のない守備組織
    • ボール奪取後は、できるだけ少ないパスでゴールまで行くダイレクトな攻撃
    • 90分間強度を落とさないハードワーク

    といった特徴が繰り返し指摘されています。

    結果として、神戸はクラブ史上初のJ1優勝を達成。
    翌2024年にはリーグ連覇に加えて天皇杯も制し、国内2冠というクラブ史上最高の成果を挙げました。
    スタメンと控えの差が課題と言われる中でも、ターンオーバーを駆使してシーズンを戦い切った点も評価されています。

    長崎での挫折も含めた「結果へのこだわり」

    もちろん、順風満帆な監督キャリアではありません。2021年にはV・ファーレン長崎の監督に就任しましたが、J1昇格争いで伸び悩みシーズン途中で退任。
    その悔しさを経て、神戸で再びチャンスを掴み、結果を出した流れは「一度失敗した監督が、学び直して帰ってきた」物語でもあります。

    サッカー批評などのインタビューでは、長崎時代の経験から「結果が出なければ意味がない」と痛感し、勝つためにスタイルを“割り切る”リアリストになったと分析されています。
    神戸での成功は、その割り切りと情熱のバランスがうまくはまった例と言えるでしょう。

    どんなサッカーをする監督なのか?

    ここからは、清水サポーター的に一番気になるであろう「どんなサッカーをするのか」を整理します。
    過去の神戸の試合や各種記事から見ると、吉田孝行のチームには、だいたい次のような傾向があります。

    ① 守備:前線からのハイプレスと守備強度

    • FW・SH・インサイドハーフを含めた全員守備を要求し、前線からボールを奪いに行く。
    • 「戦えない選手は出られない」という言葉に象徴されるように、走らない・守備をサボる選手は起用されにくい
    • 高い位置で奪えなかった場合も、ブロックを敷いた上でラインをコンパクトに保ち、セカンドボール争いで負けないことを重視。

    清水側から見ると、前線の選手もかなりの守備負担を課される可能性があります。
    特にサイドの選手は、ハーフスペースへの絞りとサイドバックの裏のスペース管理まで含めた、現代的なタスクが求められそうです。

    ② 攻撃:縦に速く、ゴールに直結するリアル志向

    • ボール保持そのものよりも、「どうやってゴールに迫るか」を優先。
    • 神戸では大迫勇也のポストプレーを軸に、サイドや2列目が連動してゴール前に人数をかける形が多かった。
    • ショートカウンターが決まり出すと非常に破壊力があり、相手にポゼッションさせながら試合をコントロールすることも少なくなかった。

    清水に来た場合、現在の選手構成にもよりますが、ターゲットになれるCFと、縦への推進力があるウイングorシャドー、ゴール前まで走り切れるボランチが重宝されると考えられます。
    ビルドアップで魅せるというより、「守備から一気に決め切る爽快感」のあるチームになるイメージです。

    ③ マネジメント:競争と共存、公平な序列づくり

    • 「競争と共存」をチームスローガンとして掲げ、どのポジションも固定ではなく、日々の練習やコンディションで序列が変わる。
    • スター選手にも特別扱いはしない。神戸ではクラブの象徴だったイニエスタでさえ、戦術とフィジカルの観点から出場機会を減らした。
    • そのうえで、選手とのコミュニケーションを重視し、自分が納得できるまで話し込むタイプとされている。

    清水に来た場合、「名前でポジションが決まる」ような甘さはかなり減ると想像されます。
    逆に言えば、若手であっても走力と守備で信頼を勝ち取れば、一気にレギュラーに食い込むチャンスもあるでしょう。

    吉田孝行が来たら、エスパルスのサッカーはどう変わる?

    最後に、報道どおり吉田孝行が2026シーズンから清水エスパルスの監督に就任した場合、どんな変化が予想されるかを、神戸での実績からイメージしてみます。
    あくまで「これまでの傾向からの予測」ですが、ポイントをいくつか挙げます。

    1. 「走るチーム」へのシフト

    まず間違いなく求められるのは、ハードワークと前線からの守備です。
    現状の清水がどんなメンバー構成になるかにもよりますが、前から追えるFW、90分上下動できるサイド、運動量のあるボランチの価値が一気に高まるはずです。

    逆に言うと、「技術は高いが守備強度に不安があるタイプ」の選手は、生き残るために守備面の改善が必須になる可能性があります。
    J1・J2問わず、走れないチームは上位争いから脱落していく時代なので、その意味では理にかなった変化とも言えます。

    2. 「結果に直結するリアル志向」への変更

    神戸での実績から見ると、ポゼッションの美しさよりも、勝ち点3を取りに行く現実的なサッカーに振れていくことが予想されます。
    清水は伝統的に「ボールを大事にする」クラブイメージがありますが、吉田体制になれば、

    • 相手にボールを持たせつつ、自陣で粘って奪ってから一気にカウンター
    • リードした試合では、無理に追加点を狙わず守備の安定を優先

    といった、より勝ち点計算に長けた戦い方が増えるかもしれません。
    勝利を最優先に考えるなら、サポーターとしても「内容より結果」を受け入れる覚悟が少し必要になりそうです。

    3. 「王者のメンタリティー」を清水に持ち込めるか

    スポニチの報道によれば、清水側は「サッカー王国復活」を目指し、神戸でリーグ連覇とタイトル争いを経験した指揮官の“王者のメンタリティー”に期待しているとされています。
    タイトルを知る監督がベンチにいることは、シーズン終盤のプレッシャーがかかる局面で大きな差になります。

    昇格争いの中であと一歩勝ち切れなかった過去シーズンを思い出すと、「ここで勝ち切る」ためのゲームマネジメントやメンタルの持って行き方は、まさに今のエスパルスに不足していた部分でもあります。
    吉田孝行がそこを埋めてくれるなら、清水にとっては非常に大きなアップグレードになるでしょう。

    おわりに:正式発表を待ちながら、来たる“吉田エスパルス”を想像する

    以上見てきたように、吉田孝行は

    • クラブの歴史の節目で結果を出してきた勝負強い元FW
    • 情熱とクラブ愛を持ちながらも、勝つためにスタイルを“割り切る”リアリストの監督
    • ハイプレスとショートカウンター、そして「競争と共存」を軸にチームを鍛える厳しくも公平なマネージャー

    という顔を持っています。
    清水エスパルスの監督就任はまだ正式発表前ですが、もし2026シーズンからアイスタのベンチに立つことになれば、チームは確実に「走る」「戦う」「結果にこだわる」方向へと舵を切るはずです。

    サポーターとしては、吉田孝行という監督の背景とスタイルを知ったうえで、「清水版・吉田サッカー」がどういう形になるのかを楽しみに待ちたいところです。

    参考リンク(本記事作成時に参照した主なソース)

    目次