はじめに ― 監督交代コメントから見える「より高みを目指す」決意
2025年12月3日、清水エスパルスの反町康治GMは、秋葉忠宏監督の今季限りでの退任について取材に応じ、「秋葉監督の尽力には感謝してもしきれない」としつつも、「クラブはより高みを目指して突き進むことを考えないといけない」と語りました。
さらに、「エスパルスの将来を見据え、強化部内で何十時間もかけて議論してきた。改革には痛みを伴う」とも話しており、今回の監督交代や主力・ベテランの退団は、単なる結果論ではなく中長期的なサッカー像に基づいた決断であることがうかがえます。


では、反町GMが目指している「より高み」とはどのようなサッカーなのか。
ここでは就任コメントや新体制発表会見、各種インタビュー・報道をもとに、2026シーズン以降を見据えた清水のサッカー像を整理してみます。
反町康治GMとはどんな人物か
まずは、反町GMのプロフィールとこれまでのキャリアをざっくり押さえておきます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名前 | 反町 康治(そりまち こうじ) |
| 生年月日 | 1964年3月8日生まれ |
| 出身 | 埼玉県出身/静岡県立清水東高校卒 |
| 現役時代のポジション | ミッドフィールダー(MF) |
| 主な所属クラブ | 横浜フリューゲルス、ベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)など |
| 主な監督歴 | アルビレックス新潟、湘南ベルマーレ、松本山雅FC、U-23日本代表監督(北京五輪)など |
| 協会ポスト | 日本サッカー協会 技術委員長(2020〜2024年3月) |
| 清水での役職 | ゼネラルマネージャー/サッカー事業本部長(2024年4月〜) |
技術委員長としての経験がベースにあるGM像
日本代表や年代別代表の強化を統括する「技術委員長」を務めた経験から、反町GMは日本サッカー全体のトレンドや世界基準のインテンシティをよく知る立場にありました。
その視点をクラブレベルに落とし込んだのが、現在の清水エスパルスでの仕事だと言えます。
就任時に語ったミッションとクラブ哲学
就任発表時、反町GMはクラブ公式コメント(静岡新聞「アットエス」などにも掲載)で、自身のミッションを次のように整理しています。
- まずはトップチームのJ1昇格への道筋を作ること
- それと並行して、編成を含めた継続的にレベルの高いチーム作り
- アカデミーを含めた地域の底上げに尽力し、「サッカー王国静岡の復活」に貢献すること
- サポーターやステークホルダーとともに「ONE FAMILY」で力強い未来を築くこと
ここから見えてくるのは、「1年だけうまく行けばいい」という短期成績ではなく、クラブとしての構造的な強さ・育成・地域との一体感を含めた“総合力”の向上を重視するスタンスです。
反町GMが描く清水エスパルスのサッカー像
1. 「アクションフットボール」=攻守にインテンシティの高いサッカー
2025シーズンの新体制発表会見や専門メディアのレポートによれば、反町GMは清水のフットボールスタイルを「アクションフットボール」と位置づけています。
これは、
- 攻撃でも守備でも自分たちから仕掛ける
- 90分を通してインテンシティ(運動量・強度)が高い
- ボールがない局面でも、ポジションの取り直しや寄せを怠らない
といった、「受け身ではなく、自分たちからアクションを起こし続けるサッカー」を意味すると説明されています。
単にポゼッションを高めるだけでなく、ボールを奪いに行くアグレッシブな守備と、奪った瞬間に前進する攻撃の両方を重視している点がポイントです。
2. スピードとトランジションを武器にしたアスリート集団
2025シーズンに向けた新体制会見では、反町GMが補強方針として、
- 時速30km以上のトップスピードを出せる選手を中心に補強したこと
- トランジション(攻守の切り替え)に強みを持つ選手を重視したこと
- 既存戦力との競争を生み出せる「若い」「パーソナリティに優れた」「クオリティの高い」選手を選んだこと
を明かしています。
これは、J1ではJ2以上に切り替えの速さやスプリント回数の多さが求められるという認識のもと、チーム全体の“アスリート性”を引き上げようとしている現れだと考えられます。
単に足が速い選手を集めるというより、
- 奪った瞬間に前へ出る
- 失った瞬間に素早くプレスに移る
といったトランジションの局面で強さを発揮できる選手を揃え、清水の“武器”としていくイメージです。
3. 「持続可能なチーム」とホームグロウンの活用
反町GMが繰り返し口にしているキーワードのひとつが「サスティナブル(持続可能)なチーム」です。2025新体制会見では、
- 昨季終盤は25歳以上の選手がスタメンの多くを占めていたこと
- 2025シーズンの平均年齢を24.3歳まで若返らせたこと
- 特にGKは平均22.4歳と大きく世代交代を進めたこと
を説明し、若手の台頭と成長を促す姿勢を明確にしています。
加えて、「ホームグロウン(自クラブ育成)の選手を増やしたい」と語り、広島がHG選手中心で優勝争いをしている例を挙げながら、清水も将来的にはアカデミー出身を主力に据えたチームにしていきたいとしています。
つまり、反町GMの描くサッカー像は、
- 育成出身や若手が中心となり
- 高い運動量とインテンシティで走り勝ち
- トランジションで相手を上回る
といった、「走れる若い集団」×「アクションフットボール」の組み合わせにあります。
4. 「リテンション」と「リノベーション」で世代交代を進める
今回の監督交代や、乾貴士をはじめとするベテラン選手の退団について、反町GMはインタビューの中で、
- 「リテンション(保持)するところとリノベーション(改修)するところが細部にわたってある」
- 「1年間の働き、今後の像を考えた時に決断をしないといけない」
- 「決して年齢や金額だけが判断材料ではない」
と語っています。
これは、年齢や情だけで残す・切るを決めるのではなく、
- 中長期的に見てどのポジションを「維持」し
- どこを「刷新」すべきか
を慎重に議論した上で決めている、というメッセージです。
サポーターにとっては寂しい決断も多いですが、「持続可能なチーム」へ移行するための痛みとして位置づけられています。
監督選びと2026シーズン以降のチーム像
今回の秋葉監督退任について、反町GMは「秋葉監督の尽力には感謝してもしきれない」と評価した上で、目標としていた「J1トップ10以内」を達成できなかったことや、クラブとして「より高みを目指して突き進む」必要性を理由に挙げています。
報道では、後任監督としてヴィッセル神戸を優勝に導いた吉田孝行監督が最有力と伝えられています。
吉田監督は、神戸で
- 前線からのハイプレス
- 縦に速い攻撃
- 高いインテンシティ
を掲げたリアリストとして知られており、もし就任が正式決定すれば、
- 反町GMの掲げる「アクションフットボール」
- 吉田監督の「ハードワーク&縦に速いプレスサッカー」
という、コンセプトの近い二人がタッグを組む形になります。
もちろん、現時点では「最有力」と報じられている段階にすぎませんが、少なくとも「走って戦うチームにしたい」という方向性自体はぶれていないと見てよさそうです。
2026シーズンに向けて予想されるポイント(あくまで見立て)
反町GMの発言や補強方針から、2026シーズン以降の清水について、次のような傾向が予想されます(ここからは「〜と考えられる」というレベルの話です)。
- 若返りはさらに進む:ベテランの役割は絞られ、試合の中心は20代前半〜中盤の選手へシフト
- トランジションの強度アップ:攻守の切り替え局面で「清水らしさ」が出るチームを目指す
- ポジション争いの激化:競争を前提とした編成で、「名前」ではなく「今のパフォーマンス」で序列が決まる
- ホームグロウン比率の増加:数年単位で見れば、「スタメンの半分以上がアカデミー出身」という姿を目指している可能性もある
- J1での安定した中〜上位進出:2025年の目標を「トップ10」としたうえで、2026年以降はACL圏やタイトル争いを視野に入れる段階にステップアップしていきたい、というロードマップが透けて見える
サポーター目線での期待と不安
期待できるポイント
- 方向性が明確なチーム作り:運動量・スピード・トランジション・若手育成という軸がはっきりしており、補強・起用方針に一貫性がある
- 「サッカー王国静岡」復活への視点:トップチームだけでなくアカデミーや地域の底上げまで見据えており、中長期的なクラブ価値の向上が期待できる
- 走る・戦う清水:アクションフットボールが浸透すれば、「走って戦うオレンジ軍団」というイメージがより強固になる
不安・気になるポイント
- 痛みを伴う改革:愛着あるベテランや功労者の退団が続く中で、短期的に戦力ダウンと感じる局面もありうる
- 若いチーム特有の波:平均年齢を下げる一方で、シーズンを通した安定感や経験値の不足が課題になる可能性
- 結果とのギャップ:理念やコンセプトが良くても、J1で結果が伴わなければ評価は厳しくなるため、「どれだけ早く結果と結びつけられるか」が問われる
とはいえ、反町GM自身が「改革には痛みを伴う」と明言しているように、この数年は「我慢と期待が同居するフェーズ」になることが想定されます。
おわりに ― 「ONE FAMILY」で見守る長期プロジェクト
反町康治GMが描く清水エスパルスのサッカー像は、
- アクティブに仕掛け続けるアクションフットボール
- スピードとトランジションを武器にしたアスリート集団
- ホームグロウンを軸にした持続可能なチーム作り
という3本柱で構成されているように見えます。
秋葉監督のもとでJ2優勝とJ1残留を達成したあと、なお「より高みを目指して突き進む」と語った今回の監督交代は、そのビジョンをさらに前に進めるための、苦渋の一手だったとも解釈できます。
2026シーズン以降、清水がどこまで「走る・戦うアクションフットボール」を体現できるのか。
そして、どれだけ多くのアカデミー出身選手がピッチの中心に立つのか。サポーターとしては、時に揺れ動きながらも、「ONE FAMILY」の一員として長期プロジェクトを見守っていくことが求められているのかもしれません。

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